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2022シーズン開幕直前・樋口靖洋監督 インタビュー
2022年3月4日の朝。快晴のアサスタ、澄んだ空気、西の方には雪が残る藤原岳。
和やかな雰囲気でボールフィーリングのメニューをこなす選手たち。しばらくすると次のメニューに移り指示を出す監督。徐々に選手の表情の真剣度が高まる。そしてまた次のメニューに移るべくピッチの外に置いてあった作戦盤を取りに走る樋口監督。場を離れる前に選手たちに声をかける「選手同士でプレーについての会話していてくれ!」、関係するポジションの選手同士で活発な会話が始まり、経験値の高い選手は具体的な指示や提案をしている様子。その間に樋口監督は動きのテーマや目的を伝えるべく作戦盤にマグネットを並べる。そして指示を出しゲーム形式でのトレーニングに移る。セットプレーの確認をしたり、時には少し動きを止めて指示を出す。止める時間は短く、すぐにボールが動き始める。ピッチから感じる活気と目まぐるしくボールも人も動くトレーニング。そして明るく響く監督の声。
練習見学をした人ならわかると思うが、これまでのヴィアティン三重のトレーニング風景では感じたことのないほどの明るさと活気。練習を見れば見るほど、そして開幕が近づくにつれて期待に胸が膨らむばかり。およそ90分あまりの全体練習を終え、少し待つとインタビュー場所に樋口監督が来てくれた。1月中旬に新チームが始動して2ヶ月弱、開幕を1週間後に控えた指揮官にインタビューを行った。
樋口監督・開幕直前インタビュー
VTM:新チームが始動して2ヶ月弱、開幕を1週間後に控え、ここまでのトレーニングはプラン通りに進んでいますか?
しっかりとトレーニングの積み重ね、積み上げてきている手応えは感じています。怪我人が何人か出ているので、ある程度想定はしていましたが残念な部分ではあります。ただチーム全体で共有すべきところに関してはしっかりとした手応えを感じています。
VTM:新チームの現状を踏まえて、攻撃・守備それぞれにどういったことを重点的に強化されているのでしょうか?
トレーニングの重点というより、まずスタートするにあたって選手たちに私という人間を知ってもらう、私が選手たちのパーソナリティを知るというところが必要と考え、最初の1週間〜2週間かけてそこに取り組みました。お互いに知った上で、お互いに認めあった上でいろんなことが伝わるだろうと感じています。それに対して選手たちは非常にオープンマインドに接してくれましたし、私自身もオープンマインドで接しました。好き嫌いは別にして「こういうタイプの人物なんだな」というところは分かってもらえたと思っています。
それをベースにしてスタートし、攻守を分けてというより、攻守ともにチームとしてどう闘うのか?チームコンセプトをひとつひとつパートに分解してトレーニングしています。だいたい一週間単位ぐらいでそのテーマに取り組み、攻撃のときの共通理解は何か?守備のときは何を大切にするのか?といったやり方をしました。一週間単位でやりながら、5〜6週間やったところで大部分を伝えることができたと感じています。
VTM:これまでに指揮されたいろんなチームと比較して、ヴィアティン三重がそういった指導をする中で苦労した部分などはありましたか?
いえ、これは難儀だな…ということは特にありませんでした。私はこういう雰囲気を作って、こういう声をかけて、こうやって練習するよ、何を価値観として、何を求めているのか?というのは日頃のトレーニングでずっと伝えてきていますので、それを選手たちは理解してくれていると感じています。本当に彼らはオープンマインドで取り組んでくれていますので特別難しい部分はありません。スタートして2週間ぐらいのところで一人ひとり全員と面談をしました。ひとりにつき5分〜10分程度のものではありますが、彼らにどういうプレーをするのか?どういう特徴があるのか?という自己分析を聞くことによって、選手が自分をどう見ていて、どういうプレーができるのか?したいのか?を聞くことができました。そういったこともあってスムーズにスタートできていますし、選手とは良い距離感を作れたと思っています。
VTM:日々の練習、そしてトレーニングマッチを経て、チームの特徴はどんなところだと感じていますか?
選手たちはとてもひたむきにプレーしてくれています。それはトレーニングマッチでも感じました。私は「こだわってくれ!」ということをいつも言っていて、それは勝ち負けにこだわる、選手個人個人が自分の一対一の勝負であったり、自分のプレーのクオリティにこだわるということです。それがチームとしての勝ち負けにつながるんだと。「こだわりを持つ」というところを常に伝えているので、選手たちはそれをひたむきにトライしてくれていると感じています。全員が真面目に取り組むひたむきな姿勢を感じるチームです。
そのひたむきさがピッチで、プレーに出てくると信じています。難しいゲームになった時にそのこだわりがプレーに生きてくると思いますし、真摯な姿勢が粘り強いチームを築いていくものだと思います。
あとはチームとしてボールを握ることにかなりトライしていて、攻撃的なサッカーをしようという意思を示し、チームとしてそこが整理・意識できてきているので、それをピッチで表現したいと思っています。
VTM:チームとしてやることが整理されていると言われましたが、トレーニングを見ていてもあまり多くを求めない、指示されていない印象を持ちました。そこは日頃どういったことを意識してそうされているのでしょうか?
私がトレーニングで一番大事にしているのは「選手から判断を奪わないこと」です。サッカーというのは自分で判断して自分で決断し、自分で実行するところが一番おもしろい部分でありサッカーの魅力だと思っています。それを指導者が選手たちから奪うことは絶対にやってはいけないと思っています。ましてや経験を積んできた大人のサッカー選手たちなので、大すじのコンセプトを伝えます。このトレーニングで意識することはココだぞと。その中で選手たちがどう判断するかはそれぞれの主体的な判断を尊重したいと思っています。
「あぁしなさい、こうしなさい」「今のは駄目だ」ではなく、少し違うプレーをした際には「どうしてあの場面はそういう判断をしたの?」と後から聞くことはあります。それに対して「あぁなるほど。しかし今日のトレーニングのテーマから考えるとコチラの選択をした方が良かったんじゃないか?」といったような接し方で修正をかけられたら良いと思っています。
VTM:選手それぞれの特徴を全員分聞きたいのですが、そうもいかないので、今回は新卒ルーキーの大竹選手・雨宮選手の二人に限定してその特徴・印象をお聞かせください。
大竹は恵まれたフィジカルを持っていて非常に力強いプレーができます。シーズンのスタート時には大学サッカーが終わってからしばらく動いてなかったのか(笑)コンディションが上がるのにすこし時間を要しましたが、生粋の点取り屋です。プレーを見ているとシュートへの意欲はチームで一番高いです。その部分を大事にしながら、もう少しボールを引き出すプレー、受けるプレーを身につければ、より彼にボールが集まってくるし、彼はトレーニングマッチでもゴールを決めていますので、ボールが集まってくれば得点能力は高いのでさらに持ち味を発揮できるのではないかと思っています。
雨宮は高いテクニックを持っています。大竹とは逆にボールを引き出すことがたくさんできて、上手くボールを受けられます。そこが大きな持ち味で、さらに自分でリズムを作ることができる。良いアクセントになっています。彼の課題を挙げるとすればボールを引き出して受けられるものの、彼にとって決定的な仕事、最も大事な役割は何か?という話をしています。そこを突き詰めてやっていくことができれば一皮むけて次のステップに進めるのだと思います。
VTM:大竹選手、雨宮選手がそれぞれにチーム内でお手本になる選手を挙げると誰でしょうか?
大竹は⑩田村が手本になると思います。ボールの引き出し方が非常に上手いですし、ボールを呼び込める選手です。雨宮にとっては⑤菅野哲也でしょうか。間で受けることができて、受けた時に決定的なパスが出せるか?決定的なドリブルができるか?といったところの「仕事とはなにか?」を整理するためには彼のプレーは参考になるので意識すると良いでしょうね。
VTM:三重県のサッカーファン、三重県のサッカー界は樋口靖洋さんがヴィアティン三重の監督をすることに注目していると思います。樋口監督のこれまでのキャリアも含めて注目度が高まっている中、そういった方々に「オレはこういう監督なんだよ」と自己分析を踏まえてを自己紹介するならどんなことを伝えられますか?
注目されてますかね???(笑)三重を離れて42年ぶりに戻ってきたので、正直なところ三重県のサッカー事情であったり、サッカー界のみなさんとの繋がりはあまり深くないので自分が監督をすることが注目されているという実感はあまりないんですよね。騒いでるのは四中工の同級生ぐらいかと(笑)
自己分析をしてそれを伝えるのは難しいですね…(汗)大切にしていることを挙げるとすれば、サッカーをするのは選手であって、監督が前に出すぎてはいけないと思っています。もちろん監督がいて、いろんな戦術が決まってサッカーをすることは間違いないのですが、ピッチで選手が生き生きとプレーする。そういう空気感を作ることが監督としてまずやるべき仕事だと思っています。
余談にはなりますが、かつて日産に私が入ったときに加茂周監督に言われたことがあります。「樋口、監督の仕事とはなんだと思う?」となぜか私に聞かれました。「選手を決めて、戦術を決めることじゃないでしょうか。」と答えました。「そんなのは当たり前だ、一番大事なのはマネージメントなんだ。」そう言われたことがずっと記憶に残っています。それは指導者になる前のことだったのですが、指導者になった時にそのことを改めて感じ、大切にしています。
もうひとつ、横浜F・マリノスでコーチをしていた時(1999〜2005)、2006年から山形で監督をやらせてもらうことになり、チームを離れる私に横浜F・マリノスの監督だった岡田武史さんから言われたことがあります「樋口、監督とコーチの違いは何かわかるか?」私はこう答えました「コーチが決めることはできないですが、監督には決定権があることです。」 すると岡田さんは「その通りだ。これからお前が監督をやることになったら、物事を自分で判断し決めなければならない。決定権はあるけれどその重みを頭に入れておけよ。」と。そういった言葉が監督としての自分のベースになっています。マネージメントすること、決断するポジションであるということを自覚しなくてはならないと思っています。
あと…、ベンチやピッチサイドでの振る舞い、雰囲気が樋口士郎にそっくりだと言われます(笑)遠目に見たらどっちかわからないなんて言われましたよ(笑)声のかけ方とか歩き方とか、自分にはわからないですけどそっくりらしいです。
VTM:ところでヴィアティン三重に関わって2ヶ月弱になりますが、関わった上でヴィアティンについて士郎さんと何か話はされましたか?
全くしてないです!(笑)お互いに立場が違いますし、それぞれの立場でクラブに携わってやっていければ良いなと思っていますしね。たまに練習を見に来たり、トレーニングマッチを見たりしてるようなので、恐らくシーズンが始まってなにかのタイミングでヴィアティン三重のサッカーについて「どう思う?」ぐらいは聞いたりすると思います(笑)
VTM:今季のスローガン「SYMBOL of MIE 〜三重の象徴たれ〜」という言葉は、就任会見で話されていた樋口監督の言葉が元になってできましたが、ヴィアティン三重が三重県サッカーの象徴になるために、大切なことは何だと考えていらっしゃいますか?
ヴィアティン三重が掲げている理念、これを達成すること。常にこれを念頭において取り組むこと。ヴィアティン三重にはさまざまな競技があり、我々はサッカーにおいてJ3を目指すという目標を掲げていて、その僕らが理念を達成するためにまずは勝負に勝たなければならない、強くならなければ象徴にはなれない。
もうひとつは、ただ勝てば良いわけではない。やはり子どもたち、育成年代の子どもたちが観に来てくれた時に「このサッカーをやりたい!このサッカーを目指したい!こういうプレーが好きなんだ!」といったような指標になるようなサッカーをしなければならない。
そして地域の人たち、観る人たち、観客が「サッカーってこんなにおもしろいんだ!」と味わってもらうことが理念を達成するために必要だと考えています。
強いチームになる、子どもたちの指標になるような存在、観ている人たちがワクワクするような試合をしよう、この3つを同時に達成するべくやっていくことが地域に認められ、愛されて、「ヴィアティン三重が三重県にあって良かった!」と思ってもらえるようにそれを追求していきたいと思います。
VTM:最後にお聞きします。いよいよ開幕を迎えるにあたって、最も重要なこと・大切だと考えていることはなんでしょうか?
やはり勝つこと、結果を出すことです。開幕戦をホームでやれるわけですし、今年のヴィアティン三重はこういうサッカーをやるんだぞ!というインパクトを観ている人たちに感じてもらう。その上で結果を出す。そういう意味ではいまトレーニングで積み重ねているチームコンセプトをしっかりと表現して勝利する。それに集中したいですし、残りの一週間で整理して良いコンディションで試合を迎えられるよう準備したいですね。
VTM:今日はありがとうございました!
インタビューを終えて場を離れる際、樋口監督は笑顔で言ってくれた「聞きたいことや話してほしいことがあれば何でも言ってください!可能な限りどんどん協力しますので!よろしくおねがいします(^^)」
トップの画像を見ていただくと分かる通り、こちらの要求に気さくに応じてくれる樋口監督。「タオマフを広げて5割増しの笑顔をお願いします!」とお願いして撮らせてもらった写真だ。試合を終えるたびにこの笑顔が見られるよう、我々もしっかりと後押ししよう。
そう思わせてくれる魅力あふれる監督と共に歩む闘いが、まもなく始まる。
2022 JFL開幕戦 3/13 日 vs ホンダロックSC
- 第24回 日本フットボールリーグ 開幕戦
- 試合日程:2022年3月13日(日)
- 対戦相手:ホンダロックSC
- 試合会場:朝日ガスエナジー東員スタジアム
- 開始時間:13:00キックオフ