NEWSヴィアティン・マニア / トップチーム
インタビュー:和波スポーツダイレクター・前編
2023年最初の記事は、ヴィアティン三重のスポーツダイレクターとトップチームのコーチを兼任する和波智広氏のインタビューを前編・後編の2回に分けてお届けします。
2022シーズンを終えて新シーズンの準備で忙しい中、昨シーズンの振り返りと今シーズンへの想い、自身の役割やチームとの関わり方など、非常に興味深い話をお聞かせ頂いた。プロクラブへと成長していくために必要な厳しさとクラブへの愛情に溢れた言葉は、かつて背番号7を背負いミスターヴィアティンと呼ばれた和波氏ならではと感じさせられた。
J昇格への新レギュレーションが発表され、これまで以上に厳しい勝負の年となる2023シーズン。昨シーズンに積み上げたものをベースにしてヴィアティン三重は大きな目標に向かって歩を進める。(※インタビューは新レギュレーション発表前の2022年12月中旬に行いました)
和波SD・2022シーズンを振り返る
VTM:昨シーズンはお疲れさまでした。今日は和波コーチ兼、スポーツダイレクターに昨シーズンの振り返りと来季に向けてお聞きできることがあればと思いインタビューさせていただくことになりましたのでよろしくお願いします。
和波スポーツダイレクター:よろしくお願いします。
VTM:和波さんはコーチ業と兼任でスポーツダイレクター(以下SD)でもあるので、今日は主にSD(チームの編成をつかさどる強化部門の責任者であり、選手のスカウティングや獲得交渉、所属選手・スタッフの評価が主たる業務)の立場としての和波さんにお話を伺いたいと思います。まず、SDとしての役目はどんな内容になるのでしょうか?
和波SD:まず、日々の役割としては選手を評価する役目があります。一年を通して、毎日、毎試合の評価を行っています。それは樋口監督の見方・評価と私(クラブ)としての評価があり、総合的に評価します。
VTM:それはコーチとしての役割とは別でSDの立場として樋口監督と定期的に話をする機会を設けているのでしょうか?
和波SD:機会を設けるということではなく毎日話しています。現場のトップは監督なので監督の見方・意見を伺い、この選手がいい状態だとか、今週はこの選手のこういうところが良かった、というような意見を理解・共有しながら、監督から見た良い・悪いという評価にすべて賛同するだけでなく、私の見方や意見を監督に伝えることもあります。樋口監督が、ということではなく、監督というのは何年後かに契約内容や成績に応じて交代することがありえますので、その時にクラブとしての考えや選手の評価を持っていなくてはなりません。クラブとして日々の選手を評価するのがSDの役割りのひとつです。
VTM:そういう監督とSDのやりとりというのは次の試合のメンバー構成に影響することがあるのでしょうか?
和波SD:監督によっていろんなスタイルがあると思いますが、現場に入っている時の立場はコーチングスタッフなので、樋口監督がメンバー構成で迷っていたりするときは私や岸上(GKコーチ)に意見を求められることもあります。樋口監督から「この選手とこの選手を迷っているんだがどう思う?」と尋ねられた時には、それまでのトレーニングを踏まえた上で「私はこういう見方をしています」と答えられるようにしています。
VTM:なるほど。では、コーチでもありスポーツダイレクターでもある和波さんにとって、昨シーズンはどんな一年でしたか?
和波SD:コーチ業については勉強勉強の毎日です。どこのクラブでも同じだと思いますが、コーチは日々勉強ですね。樋口監督はすごくいろんな経験をされている監督です。そして樋口監督自身が「オレは岡田さん(岡田武史氏・元日本代表監督)の影響が大きい。岡田さんと出会っていろんな価値観が変わった。」と言われています。その岡田さんから影響を受けたことについていろんな話をして下さいますし、私自身は岡田さんとは監督と選手という関係(コンサドーレ札幌在籍時)でやっていたこともあります。それを踏まえて、監督とコーチ、選手とコーチという関係の中で距離感や役割、どんなことに気を配るのか、そういったことを学んでいます。
そんな中でコーチとしては監督が仕事をしやすい環境をいかにして作れるか?そこが重要だと感じています。例えば「今のは前に出すぎてしまったな」とか「さっきの(選手に対する)表現のしかたは監督が好まない表現だったな」とか、監督の伝え方に合わせながら選手との距離感を考えた上で、細かい部分は伝えるべきだな、とか。本当にさまざまな発見というか、気づきが多い毎日です。岸上コーチも同様だと思います。一年共に闘ったスタッフ陣はたくさんのことを学べたんじゃないかと思います。
VTM:最近はJFLでもコーチが複数人いて、トレーナーを何人も置いているチームが増えてきました。そういったクラブを見たファン・サポーターは「ヴィアティンは大丈夫かな?」といった声がありそうですが、そこに関しては監督、そしてダイレクターはどのようにお考えでしょうか?
和波SD:JFLというリーグはこのリーグならではというか、監督の仕事は(上のカテゴリーに比べて)やることが多く、映像を見たりフィジカルトレーニングの面でも監督自身がいろんなアイデアを出したりすることがあります。当然J1、J2のクラブならいろんな役割が細分化されていてそれぞれに人材が置かれていて、監督は大枠のところを話して締めるといった体制だと思いますが、昨シーズンも樋口監督が様々な部分に力を注いでくれていました。体制としてヘッドコーチがいて、アシスタントコーチがいてというのが望ましいところはあると思いますが、ヘッドコーチ(以下HC)だから意見を言い合える、アシスタントコーチ(以下AC)だから意見を言い合えないと言うことではなくて、僕らはそれぞれの役割の中で当然意見は言いますし、そういうところは樋口監督自身がウェルカムなので、僕らも意見を言いながらチームのことが決まっていくスタイルです。
HCがいないから入れましょう、HCがいないから大事な試合で勝てなかった、ひょっとしたらそういう声があるかもしれません。しかしながらHCだろうがACだろうが、監督のサポートをするのがコーチングスタッフの役目なので、監督がこうしてくれということに対して動くわけです。そこで資格や名称に特別にこだわる必要はないだろう、スタッフにかける予算があるのなら選手の環境整備や獲得に予算をかけようというと言ってくれる監督ですので、クラブの規模を考えた上で人選・登用ができれば良いという考えを持っているのだと思います。もちろんJ1クラブのような予算規模であればスタッフを充実させたいと考えるかもしれませんが、現状のスタッフも勉強しながら成長しようという意欲を見せてよくやってくれている、十分頑張っている、そう言ってくれています。
VTM:監督のこれまでのキャリア(J1、J2、J3での監督経験)を見ると、ある程度の人数を揃えないと困る、と言われるのかと思っていましたが、そうではないのですね。
和波SD:樋口監督が細かいところまですごく気が付く方なので、僕らが甘えてしまっているところはあると思いますが、J3でも中にはもっと大変な環境のクラブがあるし、JFLというカテゴリーを考えれば十分な環境・体制が揃っているぞと言われていますので、J1からJ3まで経験された監督だからこそわかることなんだと思っています。私や岸上コーチ、安部トレーナー、木口マネージャーにとってはいろんなことを勉強できる環境にあるので、樋口監督のそういう考えに甘えることなく、監督が求めることを先に先に予測して動くように頑張っています。
昨シーズン1年を通して選手はもちろん成長しましたが、我々現場スタッフをはじめ、樋口監督と1年過ごしたことでファンの皆さんには見えない部分も含めて、サッカークラブとして学び、成長したシーズンになったと感じています。成長できたかどうかは先になってみないとわからないところもありますが、大きな学びの年になりました。この経験をクラブの土台としてこの先に繋げていきたいと思っています。
強化担当としての仕事
VTM:強化担当としての話になりますが、昨シーズンの夏の補強はとても良かったですね。FCティアモ枚方から児玉選手、FC神楽しまねから川中選手を獲得、後半戦を闘う上で欠かせない存在になっていました。
和波SD:そうですね、とても良い働きをしてくれました。チームとしては昨シーズンの後半戦はもちろんですが、昨シーズンの後半戦だけでなくその先に繋がる補強ができたと捉えています。年齢的にも2年、3年と主力でプレーできる選手。かといってウチでずっとやってくれということではなく、向上心を持った選手、当然良い働きをすれば上のカテゴリーから声がかかることもありますので、そういう形で成長していってくれるのは素晴らしいことだと思っています。そういう先に繋がる選手補強をしていけるように考えています。
VTM:強化担当とコーチの役割はご自身の中で明確に分けられているのでしょうか?
和波SD:どちらも延長線上にあるというか、強化の面においては監督が求める選手を獲得する必要があるので、コーチとして試合の場にいても対戦相手に良い選手がいれば気にしていることもあります。監督も同じように他チームの選手やカテゴリー違いで気になる選手がいれば、私にその選手の契約状況を確認・リサーチするように声をかけられます。プラスアルファで私の方から監督にこういう選手がいますよというのを話したり、代理人を通じて情報を得た選手のことを話したり。その場合は映像などの資料を監督が見て、興味がある選手がいた時にはさらに情報を得て獲得するか否かの判断をするといった流れです。
VTM:新卒で新加入が決まった四日市大学の鈴木選手はトレーニングマッチなどでプレーを見て気になっていたのでしょうか?
和波SD:鈴木選手に関しては、ウチに怪我人が多い時に練習でゲームをする際に2チーム作るには人数が足らなくて、そういう時は四日市大学さんにお願いして指定したポジションの選手をお借りして一緒に練習するようにしていました。そういう様に地元の大学と繋がりを作ってトレーニングをするというスタイルを樋口監督が提案してくれました。そういう部分も監督の経験から教わったことです。やはりアカデミー出身(樋口監督は現横浜F・マリノスである日産サッカースクールのアカデミーから指導者のキャリアをスタートさせた)の樋口監督ならではの考えだと思います。そんな中で目に留まったのが鈴木選手でした。四日市大学と言えば野垣内選手や引退した佐藤洸一選手の出身大学ですが、より良い関係性を築いた上で選手の獲得するということに意味があるのではと思っています。地元から良い選手を獲得できれば応援してくれる人が地元に増えていくきっかけにもなると思うので、それも大事にしていかなければいけない点だと考えています。
VTM:今季は多くの選手が継続契約をしてくれました。これは嬉しいことですね。
和波SD:はい、クラブから継続オファーを出した選手がこうやって多く残ってくれたことはクラブとしての財産だと思います。継続のオファーを出しても「他へ行きたい」というケースもよくありますからね。そうではなくて、樋口監督と一緒にこのスタイルを続けることでJ3昇格を果たし、次のステップに行けるんじゃないか、そう選手たちが思ってくれていることは意味のあることだと思います。こちらから「給料を倍にするから残って欲しい!」と言ったわけではないですし、結果は結果として受け止めて欲しい、それは我々の責任でもあるし選手もしっかりと受け止めなければならない、それを踏まえた上でクラブとしては樋口監督のスタイルを継続していくので残って欲しい。そう伝えて理解をし、残ってくれた選手たちですので非常に楽しみにしています。
VTM:サッカー選手の寿命は決して長いわけではないので、自分のキャリアの最も充実した時期をヴィアティン三重でプレーすると決めてくれた選手たちを嬉しく思います。きっとサポーターのみなさんも同じ気持ちでしょうね。
和波SD:他のチームからオファーが来ていた選手も当然いましたし、先方の話を聞いた選手もいます。選手にはそれぞれの人生・生活があるので、そこはルールに沿った上で話を聞いてもらっています。その上でヴィアティン三重に残る決断をしてくれたということに意味があるのではないかと感じています。
VTM:新加入選手の発表はまだ途中かもしれませんが、チームの規模としては30人ぐらいになると考えて良いでしょうか?
和波SD:恐らく昨シーズンと同じぐらいの人数、最終的には26人〜28人になると思います。
VTM:ポジション的に特に強くしたいところはありますか?
和波SD:どこを補強しなければならないかというのは退団した選手のところを見ればだいたいわかるとは思いますが、どこのポジションを?というよりかは、昨シーズンもテーマにしていたチーム内での競争力、これをもう一段階高めたい、それがチーム力の向上に繋がると思っているので、昨シーズンはフル出場した選手が半分の時間になるかもしれないけれども、そのポジションの競争力を高めることでチーム力アップ、選手層のアップという相乗効果を狙っていきたいですね。
VTM:それは昨シーズンを振り返ると、ポジションごとの競争力が不足していたということでしょうか?比較的スタートのメンバーが固定されているところも多かったように思います。
和波SD:決して固定していたわけではなく、一週間のトレーニングを見て、対戦相手やゲームプランにあった選手、その時のベストな選手を監督が選ぶ。そこで同じ選手が出て固定しているように感じられるポジションに関しては競争力が弱かったと言えるかもしれない。その選手と代わって出てくる選手がいれば固定はされないですし、それは監督が求めているところだと思います。
樋口監督は選手のいろんなところを見ていて、遊びのようなボール回しでもいかに楽しんでできているか、表情が良いか悪いか、この選手は今週は何か不安をかかえているかな?とか、そういったところを常にコーチ、スタッフと話をします。本当にチームの一体感を大切にしていて、やはりウチが勝つ時は「一体感」が生まれた時なので、「誰が」というより「全員の一体感」というのを求めるチームだと。この選手がずっと出ているから次も使うではなくて、試合ごとにこの選手を今回は入れた方がチームの一体感が生まれるだろう、そういうところを重要視していると思います。一体感と競争力、そこがテーマだと思っています。
⇒ 後編に続く