NEWSヴィアティン・マニア
阪倉裕二ヘッドコーチ・インタビュー
今シーズン上野展裕監督のもと、トップチームの指導にあたっている阪倉裕二ヘッドコーチ。御存知の通り、三重県四日市市出身(四日市中央工業高校出身)の元Jリーガー。Jクラブでの指導歴もある経験豊富な阪倉コーチは、今シーズンの成績・試合内容を語る上でとても大きな存在と言える。
そんな阪倉コーチにJFL20節終了時にインタビューを行った。
ヴィアティンを選んだ理由や三重県サッカーへの想いなど、阪倉コーチ自身の言葉でゆっくりと、噛みしめるように話してくれた。
ヴィアティン三重に来ることになった経緯・選んだ理由
VTM:ヘッドコーチとしてヴィアティン三重に来ることになった経緯を教えて下さい。
今シーズンから上野さんが監督をされるということで、以前にも一緒に仕事させてもらったことがあったのですが、彼のサッカーの考え方、指導スタイルも含めて、もっと「学びたい」という思いがありました。あとはご縁やタイミングもありました。また、樋口士郎さん(アカデミーダイレクター兼・強化部長)が来られるということも聞いていましたし、私も地元三重のサッカーにお役に立てればという部分も大きかったです。
VTM:ヴィアティン三重についてはどれくらいご存知でしたか?
チームがあることは知っていましたが、詳しいところまでは知りませんでした。ただ、四中工出身の選手が多く在籍している事や地元三重からJを目指しているクラブという事はもちろん知っていました。
VTM:JFLについての関心・情報はどれぐらいお持ちでしたか?Jクラブで仕事をされているとあまり関心を持つことはなかったでしょうか?
最近のJFLをじっくり見る機会はほとんどありませんでしたが、私自身もかつてJFLで戦っていましたので、横浜FCがJ2に上がる時(コーチ⇒監督代行)や栃木SCがJ2に上がる時(コーチ⇒監督)はJFLを戦っていました。当時からHonda FCさんもありましたし、その頃は水戸(ホーリーホック)さんなどもJFLで対戦していましたから、全く知らないということはありません。当時はJ3がない時代でしたので今とはリーグの構成が少し違いますが。
阪倉コーチの仕事内容と役割
VTM:ヘッドコーチとしての役割を教えて下さい。
大きな役割は「対戦相手の分析」です。チーム内ではディフェンスのトレーニングを分けて行う時にそこを担当しています。あとはキーパーコーチがいませんので、キーパーのトレーニングも担当しています。
VTM:日頃、相当な量の分析作業をされていると思いますが、やはり映像を使った分析が多いのでしょうか?
はい。今の時代、言葉も大切ですが、映像を見せれば正確に事実を伝えられますので「相手はこういう動きをしてくるんだ」と見せればその通り、嘘偽りがありません。当然ですが、誇張もできなければ過小評価もできないので、分析した事を選手に正確に伝えやすいですよね。
VTM:次の対戦に向けての分析作業というのはどれぐらいの時間を要しますか?
基本的には次の対戦相手の直近3試合の映像を見ます。それ以外の情報も入ってきますのでキリがない部分もあります、従って広げすぎると情報の濃度が薄くなりますし、メンバーが変わっていたり、システムが変更されていたりすることもあるので、あまり分析対象を広げすぎずにポイントを絞ってピックアップしています。
ヴィアティン三重を取り巻く環境、クラブの印象は?
VTM:地元三重に戻られ、ヴィアティン三重に加入してからしばらく経ちました。ヴィアティン三重を取り巻く環境や、クラブについてはどういった印象をお持ちでしょうか?
チーム、選手に関しての印象として「素直に聞いてくれる」というところ良い部分だと感じています。結果に関しては攻守ともに非常にアグレッシブに闘ってくれていますし、天皇杯でJ1クラブとも良い闘いを見せてくれました。湘南に勝ち、長崎には惜しくも負けてしまいましたが、ヴィアティン三重というアマチュアのクラブがプロに立ち向かっていくというところは、いろんな方に良い印象を与えることができたと感じています。
まだシーズン途中ですし、ここからが正念場だと思います。昨シーズンを含め、JFLに上がってからの2シーズンは夏場以降にやや失速してしまったところもあるようですし、後半戦の闘い方、リーグの長丁場を戦い抜くにはレギュラーだけでなく全員の底上げが必要だったり、新しく入ってきた選手も含めて良い競争意識を持って最後まで闘い抜いて欲しいと考えています。
VTM:地域においてのヴィアティン三重についてはどのように感じていますか?
JFLは全国で試合が行われていますが、遠方のアウェーにも多くのサポーターさんが来てくださっていますし、このクラブを愛している方々の熱をすごく感じます。
この輪を大きくしていくことがクラブにとっても必要だと思いますし、そのためには結果を出していくことが大切です。良い結果があるからこそみなさんに感動をお届けできたり、協力してくださる方が増えることに繋がっていくものだと思っていますので、更に頑張っていきたいと思います。
VTM:阪倉コーチのキャリアの中で、例えばJ2に上がったころの横浜FCや栃木SCと比べるとヴィアティンはどのようなクラブでしょうか?
正直に言うと(当時の横浜FCや栃木SCと比べると)まだ少年のようなクラブ、これからもっともっと伸びていくクラブだと思っています。
VTM:少し話が前後しますが、20試合終えて21失点(1試合平均1.05点)、昨シーズンは1試合平均1.7失点。去年のデータと比べてどう感じていますか?(20節終了時にインタビュー)
昨シーズンと比べれば合格点だとは思います。失点の内訳を見るとセットプレーからの失点が多く、全体の失点数自体はそれほど多くはないのですが、21点のうちセットプレーからの失点率が半分近くになります。そこはキーパーを中心にしてもうひと踏ん張りだと思います。ただ、上位を狙うのであれば1試合1失点を切るぐらいの数字でないと難しいので、4位以内という目標を達成するためにはもうひと踏ん張り必要ですね。
全体的な数字でみれば良くやってくれているので悪いわけではないのですが、目標がどこなのか?と考えると更に失点を減らす努力が必要です。
VTM:ディフェンスラインを高く保って、前線からのハイプレッシャーというのがヴィアティンのスタイルになっています。守備陣への負担が大きいように思いますが…。
前からプレッシャーをかける必要があるので、フォワードの方がキツイかもしれませんね。後(ディフェンス陣)は前がしっかりプレスをかけてくれれば、ラインが高かろうが低かろうが、前でボールにプレッシャーさえかかっていれば次は読みやすいですから。ボールにプレッシャーがかかっていないと、右にも左にも真ん中にも行かれてしまう、相手をコントロールできない状況になってしまいますから苦しくなります。
VTM:そういった役割分担や約束事というのはチームにかなり浸透しているのでしょうか?
そうですね、基本的な考え方は選手の頭に入っています。ただ、サッカーというのは急に攻撃から守備に変わったりその逆があったりと、いきなり危ない場面が来たり、同様にチャンスが巡ってきたり、その裏表です。
いきなり危ない場面になったときに冷静に対応すれば失点しなくても済んだ場面で、慌てて飛び込んでしまったり、やらせてはいけない方へやらせてしまったりということがあります。やはり守備だからこそコントロールしなければならないのですが、そういう場面での対応力がまだ不足していると感じます。
VTM:例えば天皇杯の長崎戦1点目のように、素早い飛び出しに一瞬対応しきれずに決められてしまった場面がありました。やはり身体能力や瞬発力で上回るチームが相手だと判断が遅れて失点してしまうものなんでしょうか?
やはりJチームを相手にするとフィジカル的な差が出るというのはあると思います。ただ、コンパクトにして前からボールの出どころにプレッシャーをかけて、後ろ(ディフェンス陣)は相手が何を狙っているのかが分かる状況で判断スピードを上げられれば、先手を打つことができる。咄嗟の状況で相手に対してヨーイドンにならないようにする、予測できる状況を作れば対応はできます。
そこで前からボールにプレッシャーが掛からなくなってきたり、相手にかわされてしまうと後手を踏んでしまいます。後手を踏んでヨーイドンになってしまうと身体能力で上回る相手に負けてしまってピンチが広がるということがあります。
そういう場面では両方大切だと思っています、頭(予測や判断)の部分で勝っていかなくてはいけない、そしてフィジカル的な部分も求められますので、ずっとこちらが優位な状況で守備ができるわけではありません、咄嗟の状況でも頭と身体が動いて、あるいはキーパーと連携して守るということが大切です。
VTM:試合後の会見で「PKを与えないというチームの約束がある」と上野監督がよく言われます。当然PKを与えたくてファールをする選手はいないと思うのですが、どういった状況になるとPKにつながるようなプレーをしてしまうのでしょうか?
簡単に言うとパニックになっている、脚を突っ込まなくていいところで突っ込んでしまう。そもそもポジショニングが悪くてそういった状況を作ってしまう。先日のPK(16節・奈良クラブ戦)で言うと、スローインを受けに行った選手に寄せてしまい一人奥の選手に飛ばされてピンチを招いてしまった。やはり常に正しいポジションを取り続けるという意識・判断、頭の部分が重要だと思っています。
VTM:そういったミスの場面を映像を見せて具体的に解決していくわけですね。
はい。相手チームの分析をするのが私の役割で、分析したものを自チームに落とし込むところは監督の役割になっています。監督がミスの場面を見せたり、出来ている場面・良いプレーを見せたりしています。ミスの場面ばかりを見せてネガティブになっても良くないですから、そこは監督がバランスを取ってコントロールされていますね。
VTM:上野監督・阪倉コーチの体制になって20節を終えて、チームのコンセプトや戦術の浸透度・完成度はどれぐらいのところまで来ているのでしょうか?
ん〜それは上野監督に聞いてください(笑)どうなんでしょうね、チームというのは生き物だと思うんですよね。対戦相手がいるスポーツですので相手も変わって行きますし、自分たちのことだけでは済まないスポーツですので、終わりがないものなのかなと。
やはり満足をしてしまったり立ち止まってしまうと一気に差が出てしまう。それはチームでも選手個人でもそうなります。満足することなくハングリーな気持ちを持って、目標を常に持ちながらチーム全体のベクトルを合わせるというのが大切だと感じています。
三重県のサッカーについて、三重県出身のサッカー人としての想い
VTM:私達の街・三重県のサッカーについてはどんな想いをお持ちでしょうか?
私の今の立場(ヴィアティン三重のコーチという立場)から三重県全体を語るというのはおこがましい発言になってしまうと思いますので、いちOB・三重県出身者としての想いとして話しますね。
私にも少年の頃があったわけですが(笑)小学校2年生の時に兄の影響でサッカーを始めました。そして小学校6年生の時に78年のワールドカップ・アルゼンチン大会がありました。それを見て「おおおぉぉっ!」と思ったわけです。そして中学校3年生の時に82年のワールドカップがありました。その82年のワールドカップを見た時に少年時代の自分に電流が走ったんだと思います。
自分がやっているサッカーというスポーツ、ワールドカップを見て「あんな選手になりたい!」「こんなプレーをしたい!」と強く思うようになって四中工に進学し、大学を出る頃にプロ化の話が始まったと記憶しています。
それに対していまの子どもたちはすでにプロリーグがあって、DAZNがあったりインターネットで世界中のプレーをいつでもすぐに見られる環境にあります。世界のサッカー、プロサッカーがとても身近なものになっています。
しかしこの三重県はプロチームが存在しない数少ない県になってしまっているという事実があります。一方ではプロ選手を多く排出していますし、多くの指導者も排出していて、サッカーに関する多くのものをもともと持っているポテンシャルが高い県でもあります。
そんな三重県にプロクラブがないというのは非常に残念に思っていますし、私だけではなくて三重県でサッカーに携わられた方々みなさんが同じ気持ちだと思います。
幸いにも選手としてもプレーさせてもらいましたし、指導者としてもこうやって三重県のトップカテゴリーのチームに関わらせてもらっていますので、少しでもお役に立てればという想いは常に持っています。ただ私はヴィアティン三重のコーチとしての役割がまず第一ですので、まずはその役割を果たそうと考えています。もちろん三重県のサッカー界の皆さんはほとんどがよく知っている方ばかりですし、私がお役に立てることがあればお手伝いしたいと思っています。
上野監督との関係・エピソード
VTM:以前、上野監督はインタビューの際に阪倉コーチとのエピソードを語って下さいました。阪倉コーチも上野監督とのエピソードを教えて下さい(笑)
上野さんは早稲田大学、私は順天堂大学出身なんですが、なぜか私が早稲田の寮に泊まったりしていたんですよ(笑)で、早稲田の同級生を介して上野さんと出会いました。学生代表のときも一緒になりましたし、古河電工に入ったあとも古河の先輩と上野さんが仲が良くて一緒に食事をしたりと、大学は違ったんですが何かと縁があったといいますか(笑)その後、上野さんが京都サンガにいた頃にスタッフを探されていて、声をかけてもらってサンガに入りました。
ただ、ずっと一緒に仕事をしていて長い間深い関係でいたということではなく、お互いにプロの契約の世界でやっているので、一緒に仕事をする時期はぎゅっと密接な関係になって、別のチームに行けば会わなくなるので、サッカー界に身を置くとそういった関係性で多くの人と関わっているという感じなんですよね。そして縁があってまたヴィアティン三重で一緒にやらせてもらっているという具合です。
VTM:上野監督も阪倉コーチもJクラブで指導をされていたプロフェッショナルの指導者ですが、ヴィアティン三重のアマチュア選手に対してプロとは何か?といったような話をされることはありますか?
「お金を貰ってサッカーをすることがプロ」ということだとは思いますが、必ずしもそうではなくて、取り組む姿勢だったり、すべてのエネルギーをサッカーに注ぐ選手がプロフェッショナルだと思っています。
日本がプロ化を推し進めた理由の一つに日本代表を強くしたいという思いがあったと思います。日本がJSL(日本サッカーリーグ・Jリーグの前身)でやっているころ、日本より10年ぐらい早く韓国がプロ化をしていて、当時僕らが韓国と対戦すると全く歯が立たなかった、大きな差が生まれていました。
そして日本もプロ化される中で「プロとは何か」を考えると、結果責任を問われることがプロなんだと。このシーズン失敗すればクビになってしまう、次はないということです。一方で成功すればいろんなものがついてくる実力主義です。若手だろうがベテランだろうが関係なく、結果を出す選手が評価される。そういった状況に置かれると人は2時間の練習だけが全てではなくなってきます。栄養のことやケアのこと、メンタルのことなど日常生活の全てをサッカーに注ぎ込んでいく、プロで結果を出すための逆算が始まっていく。
そして1週間ごと、試合があるごとに結果が出てくるわけです。結果を出した選手が評価されて出場機会を得るし、結果を出せないと試合に出られない。従って、実力をつけるために、結果を出すために日々トレーニングに励み、日常の全てをサッカーに注ぎ込むのがプロフェッショナルだと思っていますので、「プロとは何か?」という話はしませんが、プロのコーチとしてヴィアティンの選手にもプロフェッショナルな選手と同様のものを求めていると言えます。
ファン・サポーターのみなさんへのメッセージ
VTM:最後にファン・サポーターへのメッセージをお願いします。
遠方のアウェーにも多くのサポーターが駆けつけてくれます。みなさんがチームのためにたくさんの時間やお金、労力ををかけて応援してくださっています。ホームゲームにも本当に多くの方が来てくださってサポートしてくれています。これは選手にとって本当にありがたいことですし、苦しいときにはチカラになります。そして勝った時には一緒に喜びたいという気持ちが選手たちにはありますから、ひとりでも多くの方に試合会場に来ていただきたいと思っています。
おそらく以前からヴィアティンを応援してくれている方々が主になっていると思うのですが、やはり良いものは自分だけのものにするのではなくて、多くの方にその魅力を伝えていただいているからこそ、こうやって広がりを見せてきているのだと思います。それをもっともっと広げてもらって一人でも多くの方に来てもらえるとチームが成長する原動力になると思います。
やはり「数」というのは大きな意味があると思います。スタジアムが満員になって、試合も良い内容で、チームが強くなって勝利する。「興行」の面でもスポーツビジネスという観点からも大切な要素になりますから、多くの方に来ていただきたい。そしてわれわれは最高の準備をして、絶対に手を抜かない、走り負けない、そして良い結果を出してみなさんと喜びを共有する。そういうチームになっていくことを目指しています。
この三重県にはまだプロサッカーチームがありませんので、みなさんのチカラをお借りして、この地域からプロチームを誕生させて、ゆくゆくはこの地域からJ1に上がって、J1で活躍できて、日本代表にも選ばれるような選手を何人も輩出できるようになっていきたい、そんな大きな夢を持って取り組んでいきたいと思います。
VTM:今日は長い時間ありがとうございました!
ありがとうございました。